「ままならないから私とあなた」という表題の物語は、現代のデジタル技術をどう私たち個人のライフスタイルに組み入れるべきかという課題について考えさせられた。
しかしこの本が出版されたのが2016年。今現在は2023年。
朝井リョウの先読み力に脱帽するとともに
朝井リョウ、すごーーーーーい!!
と叫びたくなった。
デジタル技術の進化等がめざましく、時代の変化が激しくなり、将来がどうなるか、いまや誰も明確には予測できなくなった現代社会に今生きているからこそ、読むべき1冊かもしれないと思った。
このストーリーは、無駄なものにこそ、人のあたたかみが宿ると考える主人公雪子と無駄なことを次々と切り捨てていく雪子の幼なじみである薫の人生を描いたものだ。
なかでも、雪子の「~があったからこそこの人と知り合えた」等の心理描写は、私を含め昭和生まれの人によくありがちかもしれない。
それとは対照的に薫の「そういうのって意味あるのかな。」という発言。
デジタル技術がもたらすものは、薫のような利便性、合理性、最適化、効率化を求める価値観にぴったりなものばかりかもしれない。
ここで必ず価値観の違いという新たな現実をどう捉えるのかという、ある意味非常に抽象的な問題と向き合わなければならないが、それぞれが抱く正しいと思っていることを無意識に相手に押し付けてしまう描写が「アルアル」だと共感できた。
しかし皮肉にも価値観に沿った行動ができた時、人は最大のパフォーマンスを発揮できることは事実で、クライマックスで紹介される薫の発明品には驚かされた。
そして雪子の無駄なものにこそ、人のあたたかみが宿るという考え方は素敵だと思うが、今後私たちが生き抜いていかなければいけない時代では、正直この思いだけで行動していては取り残されてしまうという危機感を抱いた。
だが、この物語から危機感や不安だけを感じたわけではない。
雪子と薫の人生を対比させることによって、どちらが好ましいかを判断する価値観からアイデンティティーを複数持って状況によって変化する方法を作者から提案されたような気がした。
この本は2016年に出版された作品なので、図書館でもすぐにかりられました。
ぜひ✨