yumeka book

本を通じて、頭や心のマッサージをお届けします

「傲慢と善良」を読んで


著者は、辻村深月
この本を読もうと思ったきっかけは、帯に書かれていた作家朝井リョウ

「何か・誰かを・"選ぶ"とき、私たちの身に起きていることを極限まで解像度を高めて描写することを主題としているからだ。」

という文章だった。人生とは小さな選択の連続だと理解しているが、これを極限まで解像度を高めて描写することを主題としている作品とはどんなものか興味を持った。

しかしこの朝井リョウの文章は、人によっては目を背けたくなるかもしれない。なぜならこの文章は、この本から自分の中にもあるだろうけど認識したくはない嫌な部分を認識せざるを得なくなる心境に陥らされる可能性を示唆しているからだ。本を読む前から気持ちが苦しくなりそうだとも思った。

そしてこの本を読み進めるにつれ、やはり否が応でも自分の過去や生き方、恋愛観に向き合わされるうえ、無自覚の「傲慢さ」を省みざるを得なくさせられた。
あれは傲慢だったのか…
あれを傲慢だというのか…
今までの人生で起こった様々なシチュエーションが次々と私の頭をよぎり、否定の感情に襲われたり素直に認める感情に襲われたりと感情の揺さぶられ方は半端なく辛かった。
もしかしたら今まで私が、自分の中の傲慢さと向き合ってこなかったからこそ辛かったのかもしれないと思った。
しかし誰もが何かを、誰かを選ぶ時に、この傲慢さが顕著につきまとうことを教えてくれてもいると思った。
あなただけではないと。
そのうえで振り返ってみる。
恋愛時は、どうだったか。
相手を通して自分の点数を量る。
謙虚で自己評価が低いくせに自己愛が半端ない。
自己愛(自分を大切にすること)…。
思い当たるかもしれない…。
いや、思い当たる…。
心の中で何か鋭利なものがグサッと刺さった気がした。
辻村深月の人間に対する分析能力、観察眼のすごさを痛感させられた。

また主人公真実の失踪後の行動を通して、自ら今までの環境と違う場所を選び行動することによって、自分の居心地の良い居場所や仲間を見つけることができるという著者からのあたたかくほっこりする様なメッセージが発信されているようにも思えた。ストーリー前半の主人公真実は、ただ単に居心地の良い居場所や仲間を探せていなかっただけだと。

そして最後に書かれている朝井リョウの解説もぜひ面白いので読んでいただきたい。
気持ちは苦しくなったが、一気読みができた面白い本だった。

やっぱりすごいなぁ。プロって…。