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本を通じて、頭や心のマッサージをお届けします

『たいせつなこと』『メメンとモリ』——大人の心に残る絵本たち(『クウネル』7月号より)

忙しい毎日に、そっと寄り添う“ことば”を

気づけば今日も、あっという間に一日が終わっていた——。そんな日々が続くと、「自分らしさって、なんだったっけ?」と、ふと立ち止まりたくなることがありますよね。

心も体も疲れ果てて、本を開く気力すら湧かない夜もあるでしょう。でも、ほんの少しでいい。静かな時間を持つことが、明日を乗り越える力になるかもしれません。

そんなとき、手に取ってみてほしいのが絵本です。読もうと意気込む必要はありません。ページをめくるだけでもいい。ただ“感じる”だけで、ふっと呼吸が深くなる——そんな言葉たちが、絵本には詰まっています。

子どものための本と思われがちですが、大人になった今だからこそ、心に沁みる一節に出会えることがあります。押しつけがましくはなく、それでいて、確かに胸に届く優しい言葉。気づけば、自分の気持ちと静かに向き合う時間が生まれているはずです。

そんな絵本の魅力を改めて感じさせてくれたのが、『ku:nel(クウネル)』7月号の特集「言葉の力」です。昭和歌謡の歌詞やアニメのセリフ、有名人の名言など、多彩な言葉が紹介されています。

なかでも、**「絵本の中から一生ものの言葉と出合う」**というコーナーで紹介されている絵本の中から、心も体も「もう限界……」というときでもそっと読める3冊の絵本をご紹介していきます。

心に響く“静かな言葉゛──おすすめ絵本3冊

『たいせつなこと』──“あなたがあなたであること”の静かな力

疲れているとき、ただページをめくるだけで、心がふわっとほどけるような絵本があります。『たいせつなこと』は、そんなふうに、何もがんばらなくてもやさしく寄り添ってくれる一冊です。

アメリカの作家マーガレット・ワイズ・ブラウンが手がけ、うちだややこさんが翻訳したこの絵本では、スプーンやリンゴ、風や草といった身近なものたちが、それぞれに「たいせつなこと」を静かに語ります。

たとえば、スプーンにとっては「すくうこと」。リンゴには、リンゴとしての大切な役割がある——言葉の少ないなかに、それぞれの存在の意味がすっと浮かび上がってきます。

どのページも余白が多く、読み手の気持ちに寄り添う“静けさ”があるのも、この本の魅力。
深く考えなくてもいい。ただ感じるだけで、なにかが心にすっと届いてくる。
読み終えたあとには、不思議と呼吸がゆっくりになっているような感覚さえあるかもしれません。

そして最後のページで語られるのが、
「あなたにとって大切なのは、あなたがあなたであること」——この言葉が、そっと心に灯りをともします。

誰かの期待に応えなきゃとがんばりすぎてしまう日や、なんだかうまくいかない夜。
「それでも、ただ“わたしでいる”だけでいいのかもしれない」——そんなふうに、肩の力がふっと抜けるような、やさしい気持ちになれるのです。

何かができるから価値があるのではなく、
“あなたがあなたとしてそこにいる”ということ自体が、何よりもたいせつなのだと、筆者は静かに伝えてくれているのではないでしょうか。

ひとりの時間に、そっと本当の自分にかえれるように読んでみたくなる。そんな存在になる絵本です。

この絵本の翻訳者である、うちだややこさんがこの絵本との出会い、翻訳時の苦悩などを以下のようにインタビューで語られています。

このインタビュー記事もとても面白いですよ。

👉 book.asahi.com

『夜をあるく』──“考えるというより、感じる。読み解くというより、入り込む。

作:マリー・ドルレアン/訳:よしいかずみ(評論社)

静まり返った深夜、ランプの明かりを手に、家族4人でそっと家を出る——。『夜をあるく』は、言葉数の少ない絵本ながら、深いミッドナイトブルーに包まれた世界のなかで、五感を通して“夜”をまるごと体験する物語です。

この絵本を初めて読んだとき、まず心を奪われたのはその色彩と空気感でした。草のにおい、コオロギの鳴き声、こけや木の皮のしっとりとした香り。説明ではなく、感覚そのものとして夜の静けさや湿度が伝わってくる——そんな不思議な体験でした。

スマホやニュースから日々あふれてくる「情報としての自然」ではなく、五感で受け取る感覚のひとつひとつが、ページをめくるごとに身体を通してじんわりと染み込んでくるのです。

文章は最小限。絵のトーンは深く、静かで、ミッドナイトブルーに包まれた世界がページいっぱいに広がります。懐中電灯の光が淡くにじみ、夜の気配をそっと照らします。その光と影の美しさ、静けさ、空気の冷たさまでもが感じられるような絵の力に、何度もページを戻って見入ってしまいました。

何かを学ぶためでもなく、何かを達成するためでもない。ただ歩きながら感じる時間の豊かさを、この絵本はそっと手渡してくれます。そして読み終えたあと、不思議と心が深呼吸をしているような感覚になるのです。

考えるというより、感じる。読み解くというより、入り込む。

そんな“王道の絵本”らしい魅力が詰まった一冊です。もし少しだけ、夜の静けさに身をゆだねたくなったら、そっとページをめくってみてください。

『メメンとモリ』──“ちょっと楽に生きるための、ひとつの考え方”

「メメント・モリ」――このラテン語の言葉は、「いつか死ぬことを忘れるな」という意味を持ち、今を大切に生きることを促す教えです。

一見すると重くネガティブに捉えられがちなこの言葉ですが、絵本**『メメンとモリ』**では、まったく異なる角度からこのテーマが語られています。作者は、独特のユーモアと鋭い観察眼で人気の絵本作家、ヨシタケシンスケさんです。

この絵本は、「“死”そのものについて深く掘り下げるのではなく、『どうすれば日々をもう少し楽にすごせるのか』」ということを、子どもたちのとぼけたやりとりを通して、やさしく描いています。登場するのは、姉のメメンと弟のモリ。二人が交わす会話はシンプルながら、時にクスッと笑え、時にハッとさせられるものばかりです。

**「こう考えると、ちょっとだけラクになるよ」といった筆者の温かい心遣いや、誰もがすんなり受け入れられる“視点の転換”**が随所に散りばめられています。

ヨシタケさんはインタビューで、次のように語っています。

「この世の中には、誰も悪くない。でも誰も幸せじゃない。そういうことがたくさんある。どうすれば楽に日々を過ごせるのか。この絵本は、そのひとつの“考え方の提案”として描いたんです」

youtu.be

この絵本の魅力は、人生における**“正解”**を提示するのではなく、「こんなふうに考えるのもアリかもしれないよ」と、読者にそっと選択肢を与えてくれる点にあります。

何かを変えなければと焦っているとき、世界がなんだか重たく感じられるとき、この絵本は**「見方を少し変えるだけで、毎日ってちょっと軽くなるかもしれない」**ということを優しく教えてくれます。

子どもも大人も。

なんだかうまくいかないと感じたときに、そっと手に取りたくなる一冊です。

言葉は、いまの自分に寄り添うものを

『ku:nel(クウネル)』7月号には、絵本のほかにも、ムーミン、ドラえもん、アンパンマン、昭和歌謡、有名人の名言など、ジャンルもトーンもさまざまな言葉が紹介されています。

強く背中を押してくれる言葉もあれば、そっと肩に手を置いてくれるような言葉もあります。だからこそ、「今の自分に合う言葉」を選んで読むという姿勢が、とても自然で心地よいのだと思います。

疲れているときには、無理に前向きな言葉を取り入れなくてもいい。
絵本のような、余白のあるやさしい言葉にふれるだけで、少しずつ心はほぐれていくものです。

紙の雑誌で読む、言葉のぬくもり

この特集が掲載された『ku:nel(クウネル)』7月号は、紙の雑誌ならではの魅力もたっぷり。
ページをめくるときの手触り、文字のレイアウト、写真や絵、ページごとの余白の美しさ——どれもが、読む人の呼吸にやさしく寄り添ってくれます。

全部読み切らなくてもいい。
疲れた日には、好きなページをそっと開いてみる。
そんなふうに、日常のすきまに静かに入りこんでくれる存在になってくれるはずです。

あとがきにかえて──言葉の灯を、静かにともすように

大人になった今だからこそ、心に響く言葉があります。

がんばっても空回りしてしまう日。

「なんだか、ちっとも幸せじゃない」と感じてしまう夜。

うまく言葉にできないままモヤモヤと過ごす休日もあるかもしれません。
そんなときこそ、そっと手に取ってみてほしい一冊です。

『ku:nel(クウネル)』7月号は、“言葉の力”が、あなたの中の静かな場所に、やさしく灯りをともしてくれるような雑誌です。

ふと心がゆらぐとき、やさしい言葉に出会いたくなったら——
どうか、あなた自身のためにこの一冊を開いてみてください。

きっと、心が少し軽くなるはずです。