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Audibleで酔いしれる 池井戸潤「シャイロックの子供たち」

池井戸潤作品のひとつ「シャイロックの子供たち」をAudibleで酔いしれました。

この作品のあらすじは、東京第一銀行の長原支店で現金紛失事件が発生した、現金紛失事件に端を発する行員失踪とその裏にある不正を描く群像劇です。

タイトルの「シャイロック」とは何か。これはやはり、この記事が分かりやすかったです。

https://movies.shochiku.co.jp/shylock-movie/news/230218venice/

そして池井戸潤の作品の特徴は、独特なストーリーテリングが特徴的です。彼は、時間軸を上手く使ったり、ストーリーを複数の視点から描いたりすることで、読者の興味を引きつけます。また、意外性のある展開や読者が感動する場面を巧みに織り込んでいます。

また私は、作品の主人公だけでなく周囲の人物たちも含めたリアルな心理描写が大好きです。

そのリアル感満載の心理描写の一部を抜粋してご紹介します。

第一話「歯車じゃない」

副支店長が部下の生意気な態度を目の当たりにした時の心理描写がこちら。

この組織で上司にはむかったらどうなるか思い知らせてやる

俺はこいつの人事権を握っている

今にみてろよ

そして殴ってしまった部下宅で謝罪するときの副支店長の心理描写がこちら。(部下の実家は裕福)

そもそもローンパワーがきくような相手ならこんな事にはならなかった。

また、殴られた部下が事実に反する報告書をあげられ、はめられたと知ったときの心理描写がこちら。

副支店長を破滅させてやりたかった

第7話 「銀行レース」

本部検査部・黒田が長原支店に検査に入った際、部下の悪口を話している副支店長をみたときの心理描写がこちら。

部下の悪口イコール自らの保身

こういう管理職が一番タチが悪い

そしてこういう管理職が銀行にはもっとも多い

いや銀行だけではなくどんな会社でも同じかもしれないが

うーん、どれもアルアル。会社員や公務員人生等特に転勤や異動がある組織で働いている男女ともが共感できるところがあるのではないでしょうか。

人事権を握られている状況とは、この小説みたいなことがおこる可能性を秘めています。また、上司からはめられた部下の心情の破滅させてやりたかったという気持を抱いてしまうことも妥当な気がしますし、副支店長のローンパワーがきくような相手ならこんな事にはならなかったという発言は衝撃ですね。ローンは自分の行動を制限しますが、弱みにもなる…。そして部下の悪口を言って自ら保身する管理職は銀行だけが多いわけではありません。私は「とくにどんな会社でも同じかもしれないが」という文章が耳に入ってきた時には思わず吹き出すとともに、何人かの顔が頭にポワンポワンと浮かびました(笑)

このように池井戸潤の作品は、一部の心理描写を見ただけで、読者は彼らの内面や心情に寄り添い、自分自身や自分自身が置かれている環境等に共通する部分を見つけ、登場人物たちと感情的な共感を共有し、どんどんと作品に引き込まれていくのだと思います。特に会社員の心を掴むのは非常に上手い。

また池井戸潤の大ヒット作品の一つ「半沢直樹」の倍返しというセリフも記憶に新しいですが、こればかりは信じて実社会でやってしまうと、恐らく100倍で返ってきそうなので要注意ですね。あくまで架空のお話で楽しみたいです(笑)

とても面白い作品なので、まだ読んでいない方はぜひ。Audible契約者なら聴き放題の対象なのですぐにお楽しみ頂けます。